世界の偉大なマジシャンを紹介していくこのコーナー、第三回は19世紀ウィーンの伝説のマジシャン、ヨハン・ネポマク・ホーフジンサーです。
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さあ、三回目にして登場しました。彼はカードマジックの父と仰がれる偉大なマジシャンです。しかし、彼の業績はカードだけではありません。ブックテスト、マクドナルドエーセス、スプレッドカル、ダブルフェイスカード、ディバイデッドカード、シェルコイン…といった現代ではほとんど常識になっているようなマジックの現象・技法・原理も彼の考案と言われています。 彼の本職はウィーンの官吏で、プロマジシャンではありませんでした。しかし、週に一度、自宅のサロンに上流階級のセレブたちを招き、そこで自分の考案したマジックを披露したのです。彼がセレブ達にマジックを見せるとき、いきなりマジックを始めることはあまりしませんでした。まずは観客が関心をもっているような普通の話から始めてアイスブレイク(観客の緊張をほぐすこと)をしていました。彼のセリフはとにかくセンスが良かったそうです。だからこそ上流階級の観客からの支持を集められたのでしょう。映像が残っていないので詳しい雰囲気はわかりませんが、なんとなく演技スタイルは前田知洋氏に似ているような気がします。 |
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さて、ホーフジンサーといえばやはり「プロブレム」でしょう。プロブレムというのは読んで字のごとく「問題」のことです。天才マジシャンとして知られるホーフジンサーですが、実は自身の死に際してすべての道具とメモを焼くように夫人に遺言した(一部はオトカー・フィッシャーの説得によって救出)ため、現象は伝わっていてもホーフジンサーがそれをどうやって行っていたのかわからないマジックがいくつかあるのです。
そういった、現象だけがあって方法が不明のマジックのことをプロブレムと言います。ホーフジンサーのもの以外で有名なプロブレムとしては、インドのヨギが投げたロープが天高く昇っていき、それにつかまっていた少年とともに消えたというヒンズーロープの伝説や、前号で紹介したドコルタのグローイングダイス、それから今でも大英博物館に残っていると言われるマスキリンの自動人形「サイコ」などがあります。
さて、ホーフジンサーの話にもどります。彼が残したプロブレムの中で一番有名なものは、Lost Ace-Problemでしょう。
1969年、Third Folioというアメリカのマジック雑誌において、カール・ファルブスがunsolved card problemと称してこのプロブレムを提示してから何十人ものマジシャンが何百という(誇張でなく)「解答」を発表してきました。かくいう僕も昔ひとつ考えたことがあります。
では、実際にThird Folioにおいて示された現象(プロブレム)をみてみましょう。
四枚のエースが示され、脇に置かれる。観客がデックから一枚のカードを選び、また中ほどに返す。ここで演者は、「選んだカードのマークに心を集中してほしい」と観客に言う。それがハートだったと仮定しよう。演者がテーブルに置いてあった四枚のエースを広げると、ハートのエースだけが観客の選んだカードに変化している。
どうでしょう。魅力的な現象ですよね。ただ、Third Folioで最初に示された現象は上記の通りですが、現在考案されている回答は選んだマークのエースがリバースする現象などのおまけが加えられているものが多いです。
いずれにしても、マジシャンの心をとらえて離さない不思議な魅力があるマジックです。
ホーフジンサーは「カードマジックは手品における詩である」という有名な言葉を残しました。詩とは何でしょう。それは「最高の順序で並べられた最高の言葉」であり、「言葉を芸術に昇華したもの」でもあります。それ以上に言葉を使った人間の想像力そのものと言えるでしょう。では、カードマジックはどうでしょうか。
マジックにはさまざまな道具があり、それに対応して様々な現象もあります。しかし、カード以上にたくさんのことができる道具はないでしょう。出現、消失、変化、移動、交換、貫通、復活、読心、予言、透視…と、なんでもできます。使うのは54枚のカードと自分の想像力。それさえあれば無限の可能性が生み出せるのです。
「カードマジックは手品における詩である」とは、ホーフジンサーらしいセンスの良い言葉ですね。

Johann Nepomuk Hofzinser
(1806-1875)