ロベール・ウーダン 



世界の偉大なマジシャンを紹介していくこのコーナー、第一回は近代奇術の父と呼ばれるロベール・ウーダンです。
なぜ近代奇術の父と呼ばれるのか、それは彼が登場する以前のマジックの歴史から語らなければいけばせん。

そもそもマジックの歴史は古く、エジプトにカップアンドボールの原型が描かれた数千年前の洞窟壁画(実際は占いの図とも言われる)があったり、ファラオの前で鳥の頭を切り落とし、それを蘇生させた預言者の記録が残っていたりするほどです。ここまで古いものは別としても、初期のマジックは常に宗教と関わってきました。日本の陰陽師もこの類です。

やがて中世になって魔女裁判が盛んになるといったんマジックは衰退しますが、それを過ぎると再びマジックは息を吹き返し、さまざまなスタイルの「魔術師」たちが登場するようになります。魔法使いのようなとんがり帽子、真っ黒なローブ、たくさんの怪しげなアクセサリー、舞台は薄暗く、大きなテーブルがたくさんあります。それらのテーブルには助手が隠れられるように分厚い布を巻きつけてあり、部屋には黒魔術的な雰囲気を出すためのおどろおどろしい装飾がされていました。
このように、ウーダンが登場する以前は怪しげな宗教儀式のようなスタイルでショーを行うマジシャンが多かったのです。ウーダンはこれらの無駄な装飾やヘンテコな衣装をスッキリと取り払い、照明も明るくし、正式な夜会服を着て演技をしました。このウーダンの衣装は他のマジシャンにも大きな影響を与え、現代になってダグ・ヘニングが登場するまでは全てのマジシャンが燕尾服を着ていたほどです。ウーダンは「マジシャンは紳士として通用する普通の人格を備えた人物でなければいけない」という今日ではあたりまえのように思える考えを初めて主張しました。ここにきてようやくマジックは「エセ宗教儀式」を脱して今日のようなエンターテイメントショーになったのです。

では、ウーダンの代表的なマジックをひとつ見てみましょう。演目名を「オレンジの樹の幻想」と言います。
まず、観客の女性からハンカチを借り、それを卵に移動させると言って消して見せます。次に卵をレモンの中に移動させるといって卵を消し、さらにレモンをオレンジの中に移動させると言ってレモンを消し、最後にオレンジを手の中で揉んでいると粉になってしまいます。この粉をワインの入った小さなガラス瓶に入れます。テーブルの真ん中にミニチュアのオレンジの樹を持ってきてその前に先ほどのガラス瓶を置き、中の液体に火をつけます。すると蒸気が立ちのぼり、その蒸気を浴びたオレンジの樹に花が咲きます。さらにウーダンが魔法の杖を振るとオレンジの実がなり、それらをもぎ取って客席に投げます。(本物のオレンジ!)しかし、オレンジはまだ一つだけ樹の上に残っています。次の瞬間、そのオレンジはひとりでに割れて中から観客のハンカチを持った二匹の蝶が飛びだすのです。
まさに夢のようなマジックです。

ちなみにこのマジック、去年公開された映画『幻影師アイゼンハイム』の中でも見ることができます。(余談ですがこの映画すごく良いですよ!マジシャン必見!)映画ではCGが使われていますが、実際には精巧な仕掛けによって実現されています。ウーダンはもともと時計職人だったので、このような仕掛けづくりもお手の物でした。ちなみに、ウーダンと同じ道具を使ってポール・ダニエルズというマジシャンが演じている映像をYouTubeで見ることができます。Orange Treeで検索してみてください。

最後にロベール・ウーダンの有名な言葉を紹介して終わりたいと思います。


手品師はジャグラーではない。マジシャンの役を演じる俳優である。
役者としての落ちついた動きが完成すれば、より完璧に欺くことができるのだ。

(※かなり意訳)




Jean Eugene Robert-Houdin
(1805-1871)










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